いくら塗布と剥離がうまくいっても、その事後処理がうまく行かなければ、よいシステムにはなりません。
塗膜が水に溶けて大量に滴り落ちる、その廃水をどう処理すればよいのか。
足場の下に、シートを設置して集水し、配管を組んで、1カ所のろ過槽につなげると、剥離剤と塗膜を含んだ濁った水が集まります。私たちは、その濁った水から、剥離剤と塗膜を分離できないか、と考えました。
その頃には、私たちは、社内にラボをつくって、分析装置を取り揃えていました。私は大学時代の経験から、多少は凝集の知識があったので、凝集剤を入れて、剥離剤と塗膜を凝集させられないかと考え、さまざまな凝集剤をつくって試してみました。
その中の一つを有害物質を含んだ廃水に添加して攪拌してみると、みるみるうちにうまく凝集して、透明な液体になります。これだと思って、社内の分析装置で調べると、有害物質が除去された安全な廃水になっていたのです。
もちろん、念のために社外の試験期間でも調べてもらいました。間違いありませんでした。
これを実用化すれば、さまざまなメリットを出せます。そこで、実際のサイズで設備・機器を試作して、実験です。
工夫を重ねると、うまく機能するようになりました。廃水を集め、凝集剤を入れると、有害物質を含む塗膜片と剥離剤が凝集する。これには、視察に来られた鉄塔のオーナーである通信会社の方々も、「魔法のようだね」と驚いておられましたね。
そして、この剥離〜凝集のシステムは、大きな副産物を生みました。
それは、資材を再利用できる、というメリットです。
無害化したろ過水は、排水基準をクリアするレベルですから、ポンプで汲み上げ、洗浄用水のタンクに戻せば、洗浄用水として再利用することが可能と考えました。
そして、飛散防護養生シートなどの資材も再利用することが可能ではないかと。従来工法では、ドラム缶何十本、何百本という膨大な廃棄物が出ていましたが、それを、一気に10分の1近くに減らせる可能性があります。これは、SDGs的な面から見ても、廃棄物処理のコストの面でも、大きなメリットになるはずです。
こうして、「湿式剥離工法 PSリムーバーシステム」はできあがりました。
なにせ、これまでどこにもなかったシステムです。協力会社の力を得ながらではありますが、何から何まで自分たちで試行錯誤して開発しなければならず、本当に大変でした。
「村瀬さん、どうして、そこまで頑張るんですか」とよく聞かれます。「頼まれてもいないのに」と。
どうしてなのか。私にもよくわかりません。ただ、一つ言えるとすれば、“とにかく、目の前に大きな問題があって、困っている人が多くいるんだから、なんとかせにゃならん”という使命感でしょうか。
“このままではいけないから、なんとか良くしたい”、“役に立つものをつくりたい”と思うと、私は、力が湧いてきて、いくら失敗しても、時間や労力が掛かっても、何も苦には感じないんです。
興味を持ってくださった方には、ぜひ、この「湿式剥離工法 PSリムーバーシステム」を見ていただきたいと思います。
この工法が広がっていけば、作業員さんにも、周辺の環境にも、発注者さんにも、剥離の業者さんにも、多くのみなさんに喜んでもらえるはず。そんな日が来ることを夢見ています。